美術の伊東先生との思い出

中学生になると私は真っ先に美術部に入部しました。

もちろん、画家を目指していたというのもありましたが、美術の先生に衝撃を受けたからです。

その先生は1年生の学年主任でした。名前は伊東先生(仮)

その先生の初めての授業の時。
みんなに「何も見ずに日本地図を描けるか?」
と質問しました。

当然、正確に描けるという人はいない様子。

すると伊東先生が黒板に描き出しました。

ものの一瞬。
1分もかかったのでしょうか。

なんと、一筆書きで日本地図を描いてしまったのです。

それは、私にとってかなり衝撃的なことでした。

小学生の時は絵が下手でしたが、高学年になると絵ばかり描いていた私はクラスの誰よりも絵が上手いという自負がありました。
ひょっとすると美術の先生よりも上手いのではないかと(笑)
その自信はその一分足らずで崩れ落ちました。

そして、伊東先生の自己紹介が終わり、次にみんなに課題が出されました。

「今からとある風景の様子を文章で読むので、頭の中で思い描いたイメージを紙に描くように」と。

「道の真ん中に道路があって、その側には街路樹があって、遠くには大きな山が見えています」

そのような内容だったと思います。

出来た絵をみんなで見せ合いましたが、ほとんどの人は平坦な風景画でした。

「やれやれ」

といった具合に伊東先生が模範解答?を描きます。

伊東先生の模範解答はとても奥行きがありました。
一点透視図法を使用した絵でした。

初回の授業は、
「同じ場所を描いた絵でも、美術の知識(構図)・技法が分かればこれほどまでにも魅力が伝わるんだ」
という授業でした。


「お前ら中学生になったんだから、小学生が見にきて『へっ』って笑うような絵じゃダメなんだ。関心させる絵じゃないと」

今でも先生のその言葉を胸に刻んています。
「中学生」を「プロ」に、「小学生」を「アマチュア」という言葉に置き換えて。

廊下には先輩が描いた絵がいくつも飾られていました。
どれもレベルが高いです。

昔の生徒の作品もありますが、明らかに最近の方がレベルが高いのがわかります。
さすが、伊東先生。指導レベルが高い。

美術室にはその先生が描いた模写がいくつか飾ってありました。
先生のオリジナル作品と思われる作品の他、

畳2畳ほどの大きさのキャンバスに描かれた和田三造の「南風」
ゴッホのタンギー爺さん。

どれも本物かと思うくらい精巧に描かれていたものでした。

引用:http://milestonetoma.blogspot.com/2014/08/blog-post_25.html
引用:https://media.thisisgallery.com/works/gogh_21


伊東先生の年齢はおそらく当時定年間際のおじさんで、昭和気質の方でした。
学生時代は柔道部だったらしく、イメージでいうと頑固で気難しく、大雑把な感じです。

見た目、性格ともにステレオタイプの昭和のおじさんという感じです。

ですが、そんな伊東先生が描く絵はどれも繊細で優しく、明るく、それでいて力強い筆跡。
そんなギャップが魅力的でした。

ムンクの次に惚れ込んだのが伊東先生の絵柄でした。
今でも目標です。

しかし、伊東先生に習ったのもわずか1年半。
お礼も言えず別れてしまいました。

またどこかでお会いした際にはきちんとお礼を伝え、私の描いた絵をプレゼントしたいなと、そう思います。

どうか、伊東先生が健康で充実している生活を送っていることを願い、伊東先生との思い出をここに綴ります。


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